2015年 12月 21日
「ディオバン事件」最終的には誰の責任か?企業か大学か? |
あの事件報道から3年以上の時間が流れました。最初は専門家でないと判断が付きにくかったのですが、改めてこの事件が閉鎖的と言われる「医学研究」の闇のままで置かれているように思います。
この事件がわかりにくくしているのは裁判では臨床研究が主導した側の責任が大学側に問われず、すべて企業側に押し付けられていることです。
治験であれば、その医薬品の開発や承認にまつわる仕事はすべて企業が自己責任で行います。一方これは、承認後に企業側が提供したお金で行われた「市販後」の臨床研究です。
臨床研究は、診療の場で行われ、治験とは異なり、医師が主導して行うことが多いのですが、数千人の規模が大きい研究となると費用がかさむので、何年も時間のかかる大規模な臨床研究は人手も資金調達は大変です。
近年、大学への補助金のカットなどの予算削減の影響で、研究を行う大学側には資金があるとは限らず、それを埋め合わせるのが、企業側からの資金提供で、奨学寄付金と呼ばれています。
問題は、このお金の性質は企業側から見て、資金の性質が販売と紐づいているやり方で行われ、学術研究目的とはいえ、販売側が積極的にアプローチを行いたい、学者の先生や研究室を支援する(逆に言うと払わないところとの温度差あり)ためです。
一方、大学側から見ると、資金の提供を受けても用途に縛りがあまりないため、秘書さんの人件費から旅行費などに使い勝手がよく、本来は学術研究目的のお金としていますが、科研費などと異なり、用途に報告義務もないので便利でした。
これらの仕組みを十分に理解するのは難しかったのですが、現在はこの事件の後、奨学寄附金や大学の医師への支払いについては年に1度の公開が義務付けられました。
問題は、それをしっかり読みこなして報道するようなジャーナリストさんが少なくて、今どうなっているかを個人が知るためには、各製薬企業のHPなどを訪問して、調べていく必要があるので、大変だったりします。
製薬企業の奨学寄附金のハンドリングから営業は切り離されたはずで、再発防止にこの事件は一役を買ったとは思いますが、真相の解明に裁判しかないのかはちょっと・・・です。各大学や学会で検討が行われ、適宜、論文の撤回や再投稿などが行われていると思いますが、新しい研究ではないためそこそこで終わった(捏造論文とされたSTAP細胞のように世界的なスキャンダルにもかかわらず)のがちょっと残念ではあります。
もっとも、企業が単独で自分に都合がいいデータが出るような仕組みは絶対に許されるべきではないですし、そういう仕組みを温存していた企業側は相応の処罰が加えられるべきだと思います。
一方、難しいのは大学の先生たちで、解析を企業側にアウトソーシングしていた(少なくとも第三者にお願いすべきでしたね)のは許されないのですが、彼らが事件の発生の防止のために何ができなかったのかを明らかにして、その検討を元に再教育していると信じたいところです。
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ノバ社と元社員 無罪主張…「ディオバン」臨床データ改ざん初公判
読売新聞 2015年12月17日
http://premium.yomiuri.co.jp/pc/#!/news_20151217-118-OYTPT50179/clip
高血圧治療薬「ディオバン」を巡る臨床研究データ改ざん事件で、薬事法(現・医薬品医療機器法)違反(誇大記述・広告)に問われた製薬大手「ノバルティスファーマ」(東京)の元社員・白橋伸雄被告(64)と法人としての同社の初公判が16日、東京地裁(辻川靖夫裁判長)であった。白橋被告は「改ざんはしていない」と述べ、無罪を主張。同社も「改ざんなどの事実は確認できておらず、刑事責任を負う根拠はない」として全面的に争う姿勢を示した。
起訴状では、白橋被告は京都府立医大の研究チームが実施したディオバンの臨床研究で、改ざんしたデータを提供し、2011~12年、同チームの論文に「ディオバンの効果が高い」などとする虚偽の内容を掲載させたとしている。
検察側は冒頭陳述で、ノバ社は、自社に有利な結果が見込める臨床研究チームに対して多額の寄付金を提供。その結果を広告に使ってディオバンの売り上げを伸ばそうとしていたと指摘した。被告がデータを改ざんしたとする動機については、「ノバ社に有利な臨床結果が出ないと、販売戦略や被告の評価に影響すると考えた」と主張した。
これに対し、被告の弁護人は冒頭陳述で、「被告は、大学側からデータを受け取り、論文用の図表を作成するなどしていただけで、改ざんは第三者が行った可能性がある」と反論。ノバ社の弁護人も、「臨床研究の中心となった医師らが、データの内容を偽ったことを認めている。被告は医師の研究を支援する立場だったに過ぎない」と主張した。
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降圧剤データ改ざん ノバルティス社も否認 初公判
毎日新聞2015年12月16日
http://mainichi.jp/articles/20151217/k00/00m/040/054000c
製薬会社ノバルティスファーマの降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)を巡る臨床試験データ改ざん事件で、薬事法(現医薬品医療機器法)違反(虚偽広告)に問われた元社員、白橋伸雄被告(64)は16日、東京地裁(辻川靖夫裁判長)であった初公判で「改ざんしていない。統計に関わったが、医師の研究を手伝っただけ」と起訴内容を否認し、無罪を主張した。法人としてのノ社も「白橋被告による不正は確認できない」と否認した。
逮捕から約1年半が経過した今月になって保釈された白橋被告は黒のスーツ姿で出廷した。起訴内容について「症例の水増しはしていない」と用意した書面を読み上げ、改ざんを明確に否定した。
ノ社は出廷した執行役員が「臨床研究に対する信頼を大きく損ない、社会的責任を痛感している」と陳謝した。しかし「社内調査などで真相解明に努めたが、白橋被告による改ざんは確認できず、当社が刑事罰を負う根拠はない」と主張した。
起訴状によると、白橋被告はノ社の担当部長としてバルサルタンの効果を検証した京都府立医大の臨床試験でデータ解析を担当。医師らが2011年と12年に発表した論文で、別の降圧剤を服用した患者グループの脳卒中の発症例を水増しするなど、バルサルタンの効果が高くなるようデータを改ざんし、虚偽に基づく論文を海外誌に投稿させたとされる。従業員の違法行為で会社の刑事責任を問う両罰規定に基づき、ノ社も起訴された。
(以下略)
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この事件がわかりにくくしているのは裁判では臨床研究が主導した側の責任が大学側に問われず、すべて企業側に押し付けられていることです。
治験であれば、その医薬品の開発や承認にまつわる仕事はすべて企業が自己責任で行います。一方これは、承認後に企業側が提供したお金で行われた「市販後」の臨床研究です。
臨床研究は、診療の場で行われ、治験とは異なり、医師が主導して行うことが多いのですが、数千人の規模が大きい研究となると費用がかさむので、何年も時間のかかる大規模な臨床研究は人手も資金調達は大変です。
近年、大学への補助金のカットなどの予算削減の影響で、研究を行う大学側には資金があるとは限らず、それを埋め合わせるのが、企業側からの資金提供で、奨学寄付金と呼ばれています。
問題は、このお金の性質は企業側から見て、資金の性質が販売と紐づいているやり方で行われ、学術研究目的とはいえ、販売側が積極的にアプローチを行いたい、学者の先生や研究室を支援する(逆に言うと払わないところとの温度差あり)ためです。
一方、大学側から見ると、資金の提供を受けても用途に縛りがあまりないため、秘書さんの人件費から旅行費などに使い勝手がよく、本来は学術研究目的のお金としていますが、科研費などと異なり、用途に報告義務もないので便利でした。
これらの仕組みを十分に理解するのは難しかったのですが、現在はこの事件の後、奨学寄附金や大学の医師への支払いについては年に1度の公開が義務付けられました。
問題は、それをしっかり読みこなして報道するようなジャーナリストさんが少なくて、今どうなっているかを個人が知るためには、各製薬企業のHPなどを訪問して、調べていく必要があるので、大変だったりします。
製薬企業の奨学寄附金のハンドリングから営業は切り離されたはずで、再発防止にこの事件は一役を買ったとは思いますが、真相の解明に裁判しかないのかはちょっと・・・です。各大学や学会で検討が行われ、適宜、論文の撤回や再投稿などが行われていると思いますが、新しい研究ではないためそこそこで終わった(捏造論文とされたSTAP細胞のように世界的なスキャンダルにもかかわらず)のがちょっと残念ではあります。
もっとも、企業が単独で自分に都合がいいデータが出るような仕組みは絶対に許されるべきではないですし、そういう仕組みを温存していた企業側は相応の処罰が加えられるべきだと思います。
一方、難しいのは大学の先生たちで、解析を企業側にアウトソーシングしていた(少なくとも第三者にお願いすべきでしたね)のは許されないのですが、彼らが事件の発生の防止のために何ができなかったのかを明らかにして、その検討を元に再教育していると信じたいところです。
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ノバ社と元社員 無罪主張…「ディオバン」臨床データ改ざん初公判
読売新聞 2015年12月17日
http://premium.yomiuri.co.jp/pc/#!/news_20151217-118-OYTPT50179/clip
高血圧治療薬「ディオバン」を巡る臨床研究データ改ざん事件で、薬事法(現・医薬品医療機器法)違反(誇大記述・広告)に問われた製薬大手「ノバルティスファーマ」(東京)の元社員・白橋伸雄被告(64)と法人としての同社の初公判が16日、東京地裁(辻川靖夫裁判長)であった。白橋被告は「改ざんはしていない」と述べ、無罪を主張。同社も「改ざんなどの事実は確認できておらず、刑事責任を負う根拠はない」として全面的に争う姿勢を示した。
起訴状では、白橋被告は京都府立医大の研究チームが実施したディオバンの臨床研究で、改ざんしたデータを提供し、2011~12年、同チームの論文に「ディオバンの効果が高い」などとする虚偽の内容を掲載させたとしている。
検察側は冒頭陳述で、ノバ社は、自社に有利な結果が見込める臨床研究チームに対して多額の寄付金を提供。その結果を広告に使ってディオバンの売り上げを伸ばそうとしていたと指摘した。被告がデータを改ざんしたとする動機については、「ノバ社に有利な臨床結果が出ないと、販売戦略や被告の評価に影響すると考えた」と主張した。
これに対し、被告の弁護人は冒頭陳述で、「被告は、大学側からデータを受け取り、論文用の図表を作成するなどしていただけで、改ざんは第三者が行った可能性がある」と反論。ノバ社の弁護人も、「臨床研究の中心となった医師らが、データの内容を偽ったことを認めている。被告は医師の研究を支援する立場だったに過ぎない」と主張した。
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降圧剤データ改ざん ノバルティス社も否認 初公判
毎日新聞2015年12月16日
http://mainichi.jp/articles/20151217/k00/00m/040/054000c
製薬会社ノバルティスファーマの降圧剤バルサルタン(商品名ディオバン)を巡る臨床試験データ改ざん事件で、薬事法(現医薬品医療機器法)違反(虚偽広告)に問われた元社員、白橋伸雄被告(64)は16日、東京地裁(辻川靖夫裁判長)であった初公判で「改ざんしていない。統計に関わったが、医師の研究を手伝っただけ」と起訴内容を否認し、無罪を主張した。法人としてのノ社も「白橋被告による不正は確認できない」と否認した。
逮捕から約1年半が経過した今月になって保釈された白橋被告は黒のスーツ姿で出廷した。起訴内容について「症例の水増しはしていない」と用意した書面を読み上げ、改ざんを明確に否定した。
ノ社は出廷した執行役員が「臨床研究に対する信頼を大きく損ない、社会的責任を痛感している」と陳謝した。しかし「社内調査などで真相解明に努めたが、白橋被告による改ざんは確認できず、当社が刑事罰を負う根拠はない」と主張した。
起訴状によると、白橋被告はノ社の担当部長としてバルサルタンの効果を検証した京都府立医大の臨床試験でデータ解析を担当。医師らが2011年と12年に発表した論文で、別の降圧剤を服用した患者グループの脳卒中の発症例を水増しするなど、バルサルタンの効果が高くなるようデータを改ざんし、虚偽に基づく論文を海外誌に投稿させたとされる。従業員の違法行為で会社の刑事責任を問う両罰規定に基づき、ノ社も起訴された。
(以下略)
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by skyteam2007
| 2015-12-21 01:47
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