[家庭医と専門医]両方とも大切 |
正論だなとも思うけど、今の患者さんが求めているのは、家庭医ならできるサービスを、多忙な病院の専門医に求めていること。
現場の医師が困惑するのは、現在の患者さんが、検査なしで「大丈夫ですよ」という言葉による安心ではなく、検査をしてもらって(技術信仰が大いにあるようですね)、間違いない診断と治療であったりするわけで、行列が出来ていても、専門科にかかりたがる。
政府がアクセス制限に踏み切ろうというのは、無理ない状況ですが、患者さん側に専門科に受診するためのハードルもないため、夜間でも「小児科の先生を!」と言う家族のために疲弊している現場を思うと、難しい問題です。
6/12の日経新聞の東京版には東京23区のうち21区で子供の受診料は公費負担だそうです。夜間でも昼間でも無料なら、夜間にかかりたがります。今はコンビニ診療をとどめるものがありません。もはや、「理想像」を語るには、その前提である、環境整備(無茶な患者さんの要求を押しとどめるハードル、開業医を経ないでの大病院受診抑制)が必要な時代に入ったのでしょうね。ぽち→
【正論】水野肇 医療の中核は家庭医が担う
■開業医への補充教育など態勢整備も
≪ドクター・ショッピング≫
“心臓外科の父”といわれて多くの弟子たちに慕われていた榊原仟(しげる)博士が、なくなる直前、私に3度もいわれた言葉が近ごろ非常に思い出される。
「私が非常に心配していることは、専門医がもてはやされて、医師の中でも専門医のほうが家庭医(G・P=ジェネラル・プラクティショナー)より優れたものだという風潮が強まっていることです。専門医というのは碁盤の目の1つをやっているにすぎない。ほんとうの医師というのは、いわゆる総合診断医、つまり開業医ですよ。ここをとりちがえている人が患者にも医師にもふえているのは憂慮すべきことです。この点をあなたは何回も医療界と一般の人の両方に主張してもらいたい」
このような趣旨だったが、私は何か先生の“遺言”のような気がした。
この榊原先生の心配はまさに的中している。例えば、慶応大学付属病院の1日の外来患者は現在5500人もいるといわれている。高度医療を行う慶応病院の外来でないと診療することのできない患者が1日に5500人もいるとは思えない。大した病気でなくても慶応病院で診てもらおうという患者が多いわけである。
本来の医師のかかり方というのは、まず家庭医(開業医)のところに行って診てもらう。ヨーロッパの場合、家庭医のところに来た患者の9割はそこで治療ができる。医療機器や技術がなくて大病院や大学病院に紹介する患者は1割ぐらいしかいない。それだけの実力を家庭医は持っているのである。
医師にかかるのは世界的にみて、先進国ではこのように行われている。日本のようにカゼひき、腹痛、二日酔い、切り傷のような軽医療の患者が大学病院にわんさと行くような国はまずない。
日本では、保険証1枚で、大学病院でも開業医でもどこにでも行くことができる。これを「アクセスがいい」といって高く評価する向きもあるが、これは医療費の無駄にもつながるものであるし、何も医学の知識のない患者が自分で勝手に病状を判断し、それで大学病院に行っても何科にかかっていいかもわからない。たとえ大学病院のガイド(案内係)に聞いてみても、正しい判断であることのほうが少ないだろう。
≪家庭医を信用できない?≫
まず、家庭医に診てもらって、そこで診療できればそれでいいし、大病院や大学病院に紹介される場合も、家庭医が一応の診断を付けて紹介するわけだが、科の選択も的確であるはずである。
日本では、何か品物を買うときに百貨店に行けば何でもある。これが欧米では一流品は専門店にしかない。日本に乱れた診療の形が出たことは、こういった“文化の違い”もあるのかもしれない。
非常に厄介な問題もある。日本の国民の中には、いわゆる“かかりつけ医”と呼ばれている医師を信用せず、大病院の〇〇先生やマスコミで名の売れたドクターを名医と信じている人がいる。これは認識不足である。多くの日本の開業医(約七万数千人)はそれなりの能力を持っている人が多い。ただその中の一部ではあるが、G・Pとして必ずしも十分な条件を備えていない医師もいる。
≪幅広い経験を積んで開業≫
これは、これまでの日本の医師づくりの制度にも問題があった。かつては、医学部を卒業すると直ちに大学病院の医局に入局するのが普通だった。医局は原則として教授が専門にしている病気にしか興味を持たないし、患者もそういった人が多い。それで一人前の専門医になればいいが、こと志とちがって、開業することもある。この場合、開業医としての一応の知識と経験を持っていないことがあって、それが問題になる。
これを防ぐため、今世紀に入ってからは、医学部を卒業して国家試験に合格しても、すぐに医局に入局できなくなり、卒業後2年間は内科、外科、産科、小児科、救急、公衆衛生などの分野の勉強をしないと、医局に入局できないし、開業もできないように改められた。したがって最近は、十分な学力と経験を持った医師が誕生しているが、それ以前の開業医の一部にG・Pとして十分でない医師がいることは事実である。これは日本医師会が補充教育をする必要があり、すでにその態勢が組まれている。
そのほか、これから激増する75歳以上の後期高齢者の健康をG・Pに見守ってもらわねばならないなど、G・P問題は山積しているが、あくまでも家庭医が原則なのである。(みずの はじめ=医事評論家)